2026年10月17日

足の親指の爪のわきが赤く盛り上がり、靴下が触れるだけで血がにじむ。じゅくじゅくして膿のようなものも出てきた。いっそ自分で切ってしまおうかと迷っている方は少なくありません。結論から言うと、その赤い盛り上がりは肉芽(にくげ)といい、痛みの原因ではなく結果です。原因はその下に隠れた爪の切れ端で、肉芽だけを切っても同じ場所にまた出てきます。この記事では、肉芽と膿の正体、受診までに自分でしてよいこと・しないほうがよいこと、受診の目安を、皮膚科専門医が順に解説します。
陥入爪の肉芽とは?
肉芽とは、爪の端が刺さってできた傷を治そうとして盛り上がった、赤くやわらかい組織です。血管が多いため、少しの刺激で出血します。肉芽腫(にくげしゅ)と呼ばれることもあります。
陥入爪(かんにゅうそう)は、爪の端が横の皮膚に食い込んで炎症を起こしている状態で、肉芽はその経過の中で現れます。約7万人を対象にした国内の全国調査では、皮膚科を受診された方の0.89%、およそ110人に1人が陥入爪でした。多くは足の親指に起こります。
肉芽には、次のような特徴があります。
- 色 — 鮮やかな赤色です
- 表面 — じゅくじゅくして、光って見えます
- 出血 — 靴下や靴が当たるだけで血がにじむことがあります
- 場所 — 爪の横の皮膚、とくに足の親指の爪のわきにできます
膿が出るのはなぜ?肉芽との違い
膿は、爪が刺さった傷に細菌が入り、炎症が強くなったときに出ます。肉芽は組織の盛り上がり、膿は細菌感染の結果で、両方が同時に起こることもよくあります。
似た言葉が多いので、ここで整理しておきます。
- 陥入爪 — 爪の端が横の皮膚に食い込み、赤み・腫れ・痛みを起こしている状態です
- 爪周囲炎 — 爪のまわりに細菌が入り、赤く腫れて膿をもつ状態です
- 肉芽 — 刺さった傷の上に盛り上がった、赤くやわらかい組織です
- 巻き爪 — 爪そのものが横に丸まった変形です。巻いているだけでは痛みの原因になりません
陥入爪と巻き爪の違いは、当院の陥入爪・巻き爪のページで図を使って説明しています。
肉芽の本当の原因は、下に隠れた爪棘です
肉芽の原因は、その下に隠れている爪の切り残しや割れた破片で、これを爪棘(そうきょく)といいます。肉芽は、爪棘が皮膚に刺さり続けた結果です。日本皮膚科学会雑誌の総説でも、陥入爪でもっとも重要なのは目に見える肉芽ではなく、その原因である爪棘だとされています。
爪棘ができる理由は2つです。
- 切り残し — 深爪など、誤った切り方でできた爪の残りです
- 割れて欠けた爪 — スポーツや打撲など、外からの力で割れた爪の破片です
爪棘が刺さると、次のような悪循環が起こります。
- 爪棘が横の皮膚に刺さる
- 刺さったところが腫れる
- 腫れたところに肉芽ができる
- 肉芽ができることで、爪棘はさらに深く食い込む
- やがて硬い組織に変わり、いっそう食い込む
この輪を断つには、肉芽ではなく爪棘を取り除く必要があります。肉芽のある場所を見ると、爪棘がどこにあるかの見当がつきます。
| 肉芽のある場所 | 隠れている爪棘 |
|---|---|
| 爪の横の皮膚全体が腫れている | 爪の端全体が食い込んでいる可能性があります |
| 先のほうだけが腫れている | 爪の先端に切り残しがある可能性があります |
巻き爪の原因や予防については、巻き爪は自然に治らない?原因と選択肢を解説したコラムもあわせてご覧ください。
【医師の視点】肉芽だけを切っても治らない理由
肉芽だけを取り除いても、爪棘が残っていれば、同じ場所にまた肉芽ができます。日本皮膚科学会雑誌の総説でも、爪棘が残っているかぎり、液体窒素による凍結療法やステロイドの塗り薬では陥入爪は治らないとされています。
診察室でよく伺うきっかけ
肉芽ができて来院される方に、始まりを伺うと、多いのは次の3つです。
- 深爪をしてしまった — 角を深く切り込み、切り残しが皮膚に刺さったケースです
- 足をぶつけて爪が欠けた — 割れた爪の破片が、そのまま横の皮膚に入り込んだケースです
- スポーツをしていて靴がきつかった — 窮屈な靴で爪が横から押され、刺激が繰り返されたケースです
どれも日常のなかで誰にでも起こることで、ご本人の不注意というわけではありません。いずれの場合も、肉芽の下には爪棘が隠れていることがほとんどです。
自分で切ると、何が起きるのか
- 出血が止まりにくい — 肉芽は血管が多い組織です
- 爪棘が増える — 痛い側の爪をさらに深く切ると、新しい切り残しができ、悪循環が進みます
- 細菌が入りやすくなる — 切った傷口が、新たな感染の入り口になります
だから当院では、肉芽より先に、原因である爪棘を探して取り除きます。
段階で変わる陥入爪の治療
治療は、まず爪棘を取り除き、残った肉芽には液体窒素による凍結療法を行います。膿があれば抗菌薬を使い、肉芽が広がって慢性化した段階では手術を検討します。
陥入爪には、2002年に発表されたMozena分類という国際的な重症度の分類があり、段階によって必要な処置が変わります。
| 段階 | 目印 | 当院で行うこと |
|---|---|---|
| I期 | 赤み・軽い腫れがあり、横の皮膚を押すと痛む。膿は出ていない | 爪棘の除去、テーピング |
| IIa期 | 膿が出ている。じゅくじゅくした浸出がある | 爪棘の除去、必要に応じて抗菌薬 |
| IIb期 | IIa期と同じ症状で、横の皮膚が厚くなっている | 爪棘の除去、肉芽への処置 |
| III期 | 肉芽が広がり、横の皮膚の厚みが慢性化している | 爪棘の除去、肉芽除去、手術の検討 |
痛みが出てから受診までの期間が短いほど、必要な処置は少なくて済みます。
当院で行う処置
- 爪甲部分切除 — 食い込んでいる爪の端や爪棘を取り除きます
- テーピング法 — テープで爪の縁と皮膚を離します
- 肉芽除去 — 盛り上がった肉芽を切除します
- 液体窒素凍結療法 — 残った肉芽を凍結させて小さくします
- 抗菌薬 — 細菌感染を伴う場合に、塗り薬または飲み薬で用います
いずれも健康保険が使えます。
液体窒素は週1回を目安に、肉芽がなくなるまで続けます
爪棘を取り除いたあと、残った肉芽には液体窒素による凍結療法を行います。通院は週1回を目安に、肉芽がなくなるまで繰り返します。処置そのものに痛みがあり、回数も重ねるため、患者さんの負担は小さくありません。だからこそ、先に原因の爪棘を取り除くことを重視しています。
また、爪棘を取り除いても、そのあとのケアが十分でないと、なかなか改善が見られません。患部を清潔に保つこと、爪を押さない靴を選び、靴で圧迫されないように履くこと、テーピングで爪が皮膚に食い込まないようにすること、痛い側の爪を深く切らないことを、治療と並行して続けていただくことが大切です。
手術は、爪を残す方法から検討します
肉芽が広がって慢性化した場合は、手術を検討します。当院では、爪をつくる部分を残す爪母温存爪甲側縁楔状切除術を第一に検討し、爪をつくる部分を薬品で処理するフェノール法は、説明のうえご希望があれば行います。手術は局所麻酔で10分から15分、通院は手術当日と翌日または数日後の2回のみで、抜糸はありません。3割負担の手術料の目安は、簡単なものでおよそ4,000円台、爪の土台の形成を伴うものでおよそ7,000円台です(初診料・お薬・材料費などは別にかかります)。
2つの手術の違いや手術後の生活は、陥入爪・巻き爪のページで詳しく説明しています。
受診までに自分でできること・しないこと
受診までは、入浴時に石けんの泡でなでるように洗って患部を清潔に保ち、爪を押さない靴を選んで、圧迫されないように履いてください。肉芽や爪を自分で切ること、膿を針などで出すことはしないでください。
できること
- 入浴時に泡で洗う — 石けんをよく泡立て、泡でなでるように患部を洗い、シャワーで流します。こすらないでください
- 水気をやさしく拭き取る — 清潔なタオルで押さえるように拭き、清潔なガーゼで覆います
- つま先に余裕のある靴にする — 先の細い靴やハイヒール、サイズの小さい運動靴は、爪を横から押します
- 靴で圧迫されないように履く — かかとを靴のかかとに合わせ、靴ひもやベルトで足の甲を留めると、歩くたびに足が前へすべって爪が押されるのを防ぎやすくなります
- テーピングで爪が皮膚に食い込まないようにする — テープで爪のわきの皮膚を引き下げ、爪と皮膚の間にすき間をつくります。上手に貼れると、爪が皮膚に刺さり続けるのを防ぎやすくなります。貼り方は、連携する巻き爪メディカルサロンFのテーピングのやり方で、写真つきで紹介しています。肉芽や膿がある部分の上には貼らないでください
ハイドロコロイドの絆創膏は使ってよい?
食い込んで炎症を起こしている陥入爪では、ハイドロコロイドの絆創膏で傷を密閉することは、必ずしもよいとは言えません。ハイドロコロイドのような閉鎖療法は、皮膚が欠けた傷を治すのには向いていますが、爪が刺さって炎症が続いている状態とは事情が違うためです。当たったときの痛みを多少やわらげる効果はあるかもしれませんが、膿が出ているときは使わず、受診してください。
しないこと
- 肉芽をハサミや爪切りで切る — 出血しやすく、原因の爪棘も残ります
- 痛い側の爪をさらに深く切る — その場は楽になっても、新しい切り残しをつくります
- 膿を針や爪で押し出す — 傷口を広げ、細菌が入りやすくなります
- 市販の塗り薬だけで長く様子を見る — 炎症が一時的に落ち着くことはあっても、爪棘は塗り薬では取れません
受診の目安
膿が出ている、肉芽ができている、熱がある、のいずれかがあれば、早めに皮膚科にご相談ください。
| こんなとき | 目安 |
|---|---|
| 膿が出ている | 早めにご相談ください。膿がたまっている場合は、出すことで痛みが減ります |
| 肉芽ができている | 早めにご相談ください。時間が経つと硬い組織に変わり、治りにくくなります |
| 熱がある | 早めにご相談ください |
| 歩くのがつらい | ご相談ください |
| 治療しているのに変わらない | ご相談ください。陥入爪に似た別の病気でないかを確かめます |
陥入爪だと思っていたら、爪白癬やイボなど別の病気だったということもあります。詳しくは陥入爪・巻き爪のページの医師の視点で説明しています。
糖尿病で治療中の方、透析を受けている方は、足の血流の評価や血管外科などとの連携が必要になることがあります。当院ではなく、そうした診療科がそろっている総合病院での治療をお勧めしています。
お子さんの爪の食い込みは、成長にともなって軽くなることもあります。当院では年齢と症状に応じて保存的な方法から検討し、手術は極力行いません。
何科を受診すればよいか迷う方は、巻き爪は何科に行けばいい?受診先の選び方を解説したコラムをご覧ください。
よくある質問
肉芽は様子を見ていれば自然に治りますか?
爪棘が残っている限り、自然には治りにくいです。肉芽は爪棘が刺さり続けた結果なので、原因が残ったままでは同じ場所に出続けます。時間が経つと硬い組織に変わり、治りにくくなります。
肉芽をハサミで切ってもいいですか?
自分で切らないでください。肉芽は血管が多く出血が止まりにくいうえ、原因の爪棘が残るため、また同じ場所にできます。
膿は自分で出してもいいですか?
針や爪で出さないでください。傷口が広がり、細菌が入りやすくなります。膿がたまっている場合は、受診して出すことで痛みが減ります。
市販の塗り薬で治りますか?
塗り薬で炎症が一時的に落ち着くことはありますが、原因の爪棘は取れません。膿が出ている、肉芽ができている場合は、塗り薬で様子を見続けずに受診してください。
肉芽はどれくらいで治りますか?
治るまでの期間は、爪棘の状態と、そのあとのケアによって変わります。当院では爪棘を取り除いたあと、残った肉芽に週1回を目安に液体窒素を当て、肉芽がなくなるまで繰り返します。爪棘を取っても、患部を清潔に保つ、爪を押さない靴を選んで圧迫されないように履く、テーピングで爪が皮膚に食い込まないようにするといったケアが十分でないと、なかなか改善しません。
治療に保険は使えますか?
使えます。爪棘の除去、肉芽の処置、液体窒素、抗菌薬、手術は、いずれも健康保険の対象です。
まとめ
陥入爪の肉芽は、爪の切り残しや割れた破片である爪棘が刺さり続けた結果です。肉芽だけを切っても治らないため、自分で切らず、原因の爪棘から取り除くことが治療の出発点になります。受診までは入浴時に泡で洗って清潔に保ち、爪を押さない靴を選んで圧迫されないように履き、膿や肉芽、熱があれば早めに皮膚科にご相談ください。爪棘の除去から肉芽の処置、手術まで、当院ではすべて保険診療で行っています。
記事監修者

ふじもと皮フ科クリニック 院長
藤本 栄大(ふじもと えいた)
医学博士
日本皮膚科学会皮膚科専門医・医学博士
防衛医科大学校卒業後、自衛隊病院・防衛医科大学校附属病院での勤務を経て日本皮膚科学会皮膚科専門医を取得。同大学院在籍中に米国UC Davis(皮膚科学教室)へ留学し医学博士を取得。海上幕僚監部衛生企画室勤務、南極観測船「しらせ」医務長(第54次)、Pacific Partnership参加等を経て、2015年にふじもと皮フ科クリニックを開院。日本医科大学千葉北総病院との共同研究を継続的に実施。






