Q1. 乾癬はうつる病気ですか?
いいえ、乾癬は感染症ではありません。自己免疫のはたらきが強く出て皮膚に炎症が起こる病気で、人にうつることはありません。
乾癬

疾患のイメージ図(AI生成)
尋常性乾癬は、フケのような銀白色の垢(鱗屑)が付着した、境界がはっきりした赤い発疹が全身のさまざまな部位に生じる慢性の皮膚病です。
特に、肘・膝・腰・頭などの衣類や動作で機械的刺激を受けやすい場所に多くみられます。これは、皮膚の慢性的な炎症と新陳代謝の異常(皮膚の細胞が通常より速く作られる)が原因と考えられています。
症状は皮膚だけでなく、爪の変形やくぼみ(爪乾癬)、関節の腫れや痛み(乾癬性関節炎)を伴うこともあります。まれに、発疹が全身に広がり高熱や全身症状を引き起こすこともあります。
尋常性乾癬は感染症ではないため、人から人へうつることはありませんが、再発を繰り返しやすく、長期的な治療や生活管理が必要な疾患です。
主に肘・膝・頭皮・背中・腹部周辺に発症することが多く、対称性に現れます。
かゆみや皮膚のひび割れ・出血を伴うことがあります 。
爪にも変化が出ることがあり、くぼみ、変色、もろくなったり剥がれたりという症状が見られます 。
皮膚症状だけでなく、関節の痛みや腫れ(乾癬性関節炎)がみられることがあります。また近年の研究では、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病との関連が報告されており、全身的な炎症疾患としての側面が注目されています。
尋常性乾癬の正確な原因はまだ解明されていません。現在では、遺伝的な体質と、環境や生活習慣などの外的要因が複合的に作用して発症すると考えられています。
皮膚では本来、表皮細胞は約4週間かけて新しく入れ替わりますが、乾癬では免疫の異常な活性化によって表皮の更新が4〜7日程度に短縮し、未熟な細胞が角層に達して銀白色の鱗屑(フケ状の垢)が生じます。
この免疫異常には、自己免疫反応の一部であるT細胞と、それが分泌する炎症性サイトカインが重要な役割を果たしていることが分かっています。
発症や悪化のきっかけとしては、以下が知られています。
感染症(特に溶連菌咽頭炎)
皮膚の傷や摩擦(ケブネル現象)
精神的ストレス
薬剤(β遮断薬、リチウム、インターフェロンなど)
飲酒・喫煙
気候変化(寒冷・乾燥)
また、近年の研究では、乾癬は皮膚だけの病気ではなく全身の炎症性疾患であることが明らかになってきました。
特に、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病との関連が強く、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などの心血管疾患のリスクが高まることが報告されています。これらの背景には、皮膚と全身の血管内で共通する慢性炎症のメカニズムが関与していると考えられています。
乾癬には他にも次のようなタイプがあります:
点滴状乾癬(Guttate psoriasis):小さな水滴型の紅斑が全身に散らばる、若年者に多いタイプ。多くは喉の感染(溶連菌)によって誘発されます。
逆転型乾癬(Inverse psoriasis):ワキや鼠径部など皮膚のへこんだ部分に、鱗屑の少ない赤い斑が現れます。
膿疱性乾癬(Pustular psoriasis):膿を伴う斑が局所または全身に出現することがあります。
紅皮症型乾癬(Erythrodermic psoriasis):全身に広がる重篤なタイプで、高熱・脱水などの全身症状を伴うこともあります。
約3割の乾癬患者は乾癬性関節炎を発症し、関節痛や腫れが現れるとされています。
また、心血管疾患・うつ病・代謝症候群・クローン病などのリスクも高まることが知られており、全身の健康管理が重要となることもあります。
根治は難しいものの、症状を抑える多様な治療法があります。
外用療法(もっとも基本):ステロイドやビタミンD3外用、配合剤、シャンプーなどがあり、副作用と効果のバランスを見ながら使います 。
光線療法(紫外線治療):Narrow-band UVB、PUVA療法、エキシマランプ療法が行われます。当院では局所型のエキシマランプのみ行っております。
内服・注射治療:
免疫抑制剤やレチノイド(チガソン)、メトトレキサート、シクロスポリン(ネオーラル)、アプレミラスト(オテズラ)、デュークラバシチニブ(ソーティクツ)などが使われます。
ソーティクツを希望される場合は高次医療機関を紹介しています。
下記に記載している生物学的製剤(Biologics)は特定の免疫経路をターゲットにして高度な治療を行い、近年の進歩として注目されています。
近年では、従来の外用療法や光線療法で十分な効果が得られない中等症〜重症の尋常性乾癬に対し、生物学的製剤と呼ばれる分子標的薬が使われています。これらは免疫の炎症反応を引き起こす特定のタンパク質(サイトカイン)をピンポイントで抑える注射薬で、高い改善効果が期待できます。
日本で承認されている生物学的製剤には、インフリキシマブ(レミケード®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)、ウステキヌマブ(ステラーラ®)、セクキヌマブ(コセンティクス®)、イキセキズマブ(トルツ®)、ブロダルマブ(ルミセフ®)、グセルクマブ(トレムフィア®)、リサンキズマブ(スキリージ®)があります。
いずれも厚生労働省が定める承認施設でのみ使用でき、使用前には結核やB型肝炎などの感染症検査を行い、安全性を確認したうえで投与されます。費用は高額ですが、高額療養費制度により自己負担を軽減できます。
現在では、さまざまな治療法が利用できるようになっています。
当院では、日本医科大学千葉北総病院皮膚科と連携し、中等症〜重症の患者さまでご希望の方には、これらの治療をご案内しています。従来は症状のコントロールが難しかった方でも、日常生活に支障が出ない程度まで改善できているケースが多くみられます。
また、当院の診療活動は大学での医学研究にも貢献しており、当院勤務の萩野医師はこれまでに多数の下記のような医学論文を発表しています。
中等症〜重症の尋常性乾癬で治療にお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
皆様からよくいただくご質問を以下にまとめました。
いいえ、乾癬は感染症ではありません。自己免疫のはたらきが強く出て皮膚に炎症が起こる病気で、人にうつることはありません。
原因は一つではなく、体質(遺伝的要素)と生活習慣が関係します。皮膚の免疫が過剰に反応して細胞の入れ替わりが速くなり、赤い発疹やフケのような鱗屑が生じます。ストレス、感染、薬、飲酒・喫煙などが悪化因子になり得ます。
再発しない意味での完治は難しい一方、適切な治療で長期間よい状態を保つことは可能です。外用薬、光線療法、生物学的製剤など、症状の程度に合わせて治療を選びます。
はい。乾癬は皮膚だけでなく全身の慢性炎症性疾患として捉えられ、糖尿病・高血圧・脂質異常症・動脈硬化などと合併しやすく、心筋梗塞や脳梗塞のリスク増加も報告されています。
乾癬の約3割に乾癬性関節炎がみられ、指の付け根や膝、腰などに痛み・腫れが出ることがあります。関節の破壊を防ぐためにも早期診断・早期治療が大切です。
炎症を引き起こす免疫物質(サイトカイン)をピンポイントで抑える注射薬です。効果が高く、副作用が比較的少ないのが特徴で、中等症〜重症の方に用います。当院は日本医科大学千葉北総病院皮膚科と連携し、適応を確認のうえご案内しています。
遺伝的素因は影響しますが、必ず発症するわけではありません。体質に加えて、ストレス・感染・生活習慣などの環境要因が重なると発症しやすくなります。
保湿・刺激回避・十分な睡眠・適度な運動・栄養バランスのよい食事が基本です。再燃を繰り返す場合は自己判断で中断せず、治療方針の見直しを医師にご相談ください。
Hagino T, Saeki H, Kanda N. Biomarkers and Predictive Factors for Treatment Response to Tumor Necrosis Factor-α Inhibitors in Patients with Psoriasis. J Clin Med. 2023;12(3):974. doi: 10.3390/jcm12030974.
Hagino T, Saeki H, Fujimoto E, Kanda N. Effects of Biologic Therapy on Laboratory Indicators of Cardiometabolic Diseases in Patients with Psoriasis. J Clin Med. 2023;12(5):1934. doi: 10.3390/jcm12051934.
Hagino T, Saeki H, Kanda N. Two cases of generalized pustular psoriasis successfully treated with bimekizumab. J Dermatol. 2023;50(10):e357–e358. doi: 10.1111/1346-8138.16866.
Hagino T, Saeki H, Fujimoto E, Kanda N. Real-world effectiveness and safety of bimekizumab in Japanese patients with psoriasis: A single-center retrospective study. J Dermatol. 2024;51(5):649–658. doi: 10.1111/1346-8138.17186.
Hagino T, Onda M, Saeki H, Fujimoto E, Kanda N. Effectiveness of bimekizumab for genital, nail, and scalp lesions with psoriasis: A 24-week real-world study. J Dermatol. Epub 2024 Aug 12. doi: 10.1111/1346-8138.17427.
Onda M, Hagino T, Saeki H, Fujimoto E, Kanda N. Successful treatment of psoriasis vulgaris with ixekizumab in a patient with concurrent Sjögren’s syndrome presenting with dry eye and incomplete SLE. J Cutan Immunol Allergy. 2024;7:13804. doi: 10.3389/jcia.2024.13804.
Hagino T, Saeki H, Fujimoto E, Kanda N. Effectiveness of long-term bimekizumab treatment and predictive factors for responders in moderate-to-severe psoriasis: A 52-week real-world study. J Dermatol. 2025;52(2):317–328. doi: 10.1111/1346-8138.17532.
Hagino T, Saeki H, Fujimoto E, Kanda N. Bimekizumab for the treatment of genital, scalp, and nail psoriasis: A 52-week real-world study. J Dermatol. Epub 2024 Dec 2. doi: 10.1111/1346-8138.17569.
Hagino T, Saeki H, Fujimoto E, Kanda N. Predictive factors for responders to deucravacitinib treatment in patients with psoriasis. J Dermatol. Epub 2024 Dec 26. doi: 10.1111/1346-8138.17601.
Yoneyama M, Hagino T, Saeki H, Fujimoto E, Kanda N. A predictive factor of oral candidiasis in psoriasis patients treated with bimekizumab: Longer disease duration. J Dermatol. 2025;52(5):e361–e362. doi: 10.1111/1346-8138.17623.
Hagino T, Saeki H, Fujimoto E, Kanda N. Real-world 52-week effectiveness of deucravacitinib in psoriasis: A stratified analysis by age and body mass index. J Dermatol. 2025;52(4):663–671. doi: 10.1111/1346-8138.17617.
Hagino T, Saeki H, Fujimoto E, Kanda N. Long-term real-world effectiveness of deucravacitinib in psoriasis: A 52-week prospective study stratified by prior apremilast or biologic therapy. J Dermatol. 2025;52(4):634–641. doi: 10.1111/1346-8138.17665.
Onda M, Hagino T, Saeki H, Fujimoto E, Kanda N. Long-term maintenance of responses to bimekizumab treatment in moderate-to-severe psoriasis: A real-world comparison of Q4W versus Q8W dosing or bio-naïve versus bio-switched patients. J Dermatol. Epub 2025 Mar 14. doi: 10.1111/1346-8138.17700.
Shiba M, Hagino T, Saeki H, Fujimoto E, Kanda N. The Sustainability of Week 16 Responses to Deucravacitinib Treatment for Patients With Psoriasis. J Dermatol. 2025;52(8):e740–e741. doi: 10.1111/1346-8138.17812.
Takahashi Y, Hagino T, Saeki H, Fujimoto E, Kanda N. Identifying Predictive Factors for Complete Skin Clearance at Week 52 by Deucravacitinib in Moderate-to-Severe Psoriasis: A Prospective Observational Study. Cureus. 2025;17(6):e86044. doi: 10.7759/cureus.86044.
TOP
