アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎

はじめに

アトピー性皮膚炎

 多くの方が一度は耳にしたことがあると思われる代表的な皮膚疾患の一つです。

 痒みのある湿疹が全身にみられ、良くなったり悪くなったりを繰り返します遺伝的な素因がベースにあると考えられています。

 乳幼児に多い疾患ですが、大人になってもなかなか治らないケースや、一部は大人になってから発症するケースもあります。乳幼児は顔を中心にできやすく、成長するにつれて肘・膝の裏の関節部位から胸、背中、お尻など広範囲に広がっていきます。

 かゆみが続き日常生活に支障をきたすこともあります

 治療については、過去の治療法に加え近年では新たな注射薬も登場し、新しい局面を迎えています。

 


原因について

 アトピー性皮膚炎の原因は正確にはまだわかっていませんが、アレルギーを起こしやすい体質と、皮膚のバリア機能が弱く乾燥しやすい体質がベースにあると考えられています。一部では遺伝子の異常が報告されており、遺伝的な要因や環境的な要因など、複数の要因が複合的に関与していると考えられています

 具体的には親にアトピー性皮膚炎がある場合子供もアトピー性皮膚炎を受け継ぐことがあると報告されていますし、皮膚の表面を覆っている層には皮脂やタンパク質の膜があり、体の外からの刺激を防ぎ皮膚の中から水分が逃げていくのを防ぐ機能が本来あるところ、その機能が落ちているため乾燥肌となり日常生活の多くの刺激に反応して皮膚炎を起こしやすくなると考えられています。

 

治療について

 基本は、皮膚を守るための保湿剤でのスキンケアと、炎症を抑えるためのステロイド剤、タクロリムス等の抗炎症作用の外用薬の2本柱での治療が主体となります。炎症が起こっていない、つまり湿疹が出ていない状態では保湿剤でのスキンケアが主体ですが、炎症が起こってしまっているところはスキンケアだけでは治らないため抗炎症剤が必要となります。更に痒みが強い場合は抗アレルギー剤の内服薬を併用すると痒みが治りやすいこともあります。つまり炎症を起こしているところは抗炎症作用の外用薬でしっかり抑えて、徐々に保湿剤によるスキンケアでコントロールしていくというのが基本的な考え方です。

 しかし保湿剤のみにするとすぐに悪化してくるという場合もあります。その際は、症状の出やすい部位に抗炎症作用の外用薬を期間をあけながら、湿疹が出る前に外用していくプロアクティブ療法も有効であり現在では主流となっています。つまりトラブルが起こってから対処するのではなく、トラブルが起きる前に先を見越して治療するという考え方です。

 塗り薬で十分コントロールできない重症な場合は、従来ネオーラルという名称の免疫抑制剤の内服を行うこともありました。しかし腎障害や高血圧などの副作用もあり長期連用は難しい薬剤でした。長らくアトピー性皮膚炎の治療薬に新薬は登場していませんでしたが、2018年1月にデュピクセントという名称の注射薬が承認を受けて以来、新薬が続々と登場しています。

 

<注射剤>

 アトピー性皮膚炎の病態形成に強く関与する炎症を選択的に抑制する生物学的製剤で、非常に効果が高い半面、高額な治療なため様々な制限があります。ただし今後の医療を考える上では重要な役割を担うことが想定される治療の一つです。導入は大学病院でお願いし、その後の継続治療を当院で行なっています。

◯デュピクセント(デュピルマブ)・・IL-4とIL-13という物質(サイトカイン)を抑制することで皮膚の炎症を抑える薬剤です。

◯ミチーガ(ネモリズマブ)・・2022年8月より使用可能となった、ヒト化抗ヒトIL(インターロイキン)-31受容体Aモノクローナル抗体である皮下注射剤です。かゆみを止めるのに有効であるとされています。

◯アドトラーザ(トラロキヌマブ)・・2023年9月に使用可能となったIL-13を直接抑制することで炎症を抑える薬剤です。

 

<外用剤>

 従来のステロイドやタクロリムス外用でトラブルがある方、使えない方などに期待される外用薬です。副作用は少ない反面、即効性がないという側面があります。しかし長期に外用すると次第に効果が見られるようになりますし、悪化させないような予防的な効果も期待できます。当院でも処方可能です。

◯コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)・・2020年6月にヤヌスキナーゼ阻害剤のという軟膏が使用可能となりました。

◯モイゼルト軟膏(ジファミラスト)・・2022年6月に使用可能となったホスホジエステラーゼIV阻害薬です。

 

<内服薬>

 中等症から重症のアトピー性皮膚炎で、従来の治療でコントロール不良の場合に使用可能な治療薬です。生物学的製剤と同様、非常に有効な反面、高額であることと定期的な副作用の有無の確認が必要なので基幹病院での導入となります。長期に渡り副作用なく安定した場合当院での治療が可能となります。

◯オルミエント(バリシチニブ)・・従来関節リウマチで使用されていた薬剤で、2020年12月にアトピー性皮膚炎に適応となった、JAK1/JAK2阻害薬です。

◯リンヴォック(ウパダシチニブ)・・オルミエント同様、関節リウマチで使用されていた薬剤で、2021年8月にアトピー性皮膚炎に適応となったJAK1阻害薬です。

◯サイバインコ(アブロシチニブ)・・2021年12月に発売されたJAK1阻害薬です。

 

 このように様々な治療があるので、ご本人と相談しながら症状やライフスタイルなどを考慮して治療方針を決めていきます。

 

中等症・重症の患者様へ

 上記のように現在では様々な治療が登場しています。現在当院では日本医科大学千葉北総病院皮膚科と連携し、中等症・重症の患者様でご希望の方は上記の治療をご案内しています。従来コントロールが不良であった方もQOLに支障が出ない程度までコントロールできている方も多くいらっしゃいます。また、当院の活動は大学での医学研究にも貢献し、当院で勤務している萩野医師が全国に先駆けて上記薬剤での医学研究を行い医学論文*1を発表し、その後も当院と共同で先進的な医療に取り組み次々と研究成果を発表*2,3,4,5,6,7,8,9,10しています。

 中等症・重症のアトピー性皮膚炎の患者様で治療にお困りの場合ご相談ください。

 

 *1 Teppei Hagino, et al. The efficacy and safety of udapacitinib treatment for moderate to severe atopic dermatitis in real-world practice in Japan.  J Dermatol. 2022;00:1-10

*2 Teppei Hagino, Hidehisa Saeki, Eita Fujimoto and Naoko Kanda.  Efficacy and safety of baricitinib treatment for moderate to severe atopic dermatitis in real-world practice in Japan. J Dermatol.Volume 50, Issue 7 July 2023 Pages 869-879

*3 Teppei Hagino, Hidehisa Saeki, Eita Fujimoto and Naoko Kanda. The Eosinophil-to-Lymphocyte Ratio Acts as an Indicator for Improvement of Clinical Signs and Itch by Upadacitinib Treatment in Atopic Dermatitis. J. Clin. Med. 2023, 12.

*4 Teppei Hagino, Hidehisa Saeki, Eita Fujimoto and Naoko Kanda. The differential effects of upadacitinib treatment on skin rashes of four anatomical sites in patients with atopic dermatitis.  J. dermatological treatment. 2023, vol34, no1.

*5 Teppei Hagino, Hidehisa Saeki, Eita Fujimoto, Naoko Kanda. Background factors predicting the occurrence of herpes zoster in atopic dermatitis patients treated with upadacitinib. J Dermatol. 2023;7

*6 Teppei HaginoMai YoshidaRisa HamadaEita FujimotoHidehisa SaekiNaoko Kanda.Therapeutic effectiveness of upadacitinib on individual types of rash in Japanese patients with moderate‐to‐severe atopic dermatitis. J dermatolo. 2023;9

*7 Teppei HaginoMai YoshidaRisa Hamada, Hidehisa Saeki, Eita FujimotoNaoko Kanda.Effectiveness of switching from baricitinib 4 mg to upadacitinib 30 mg in patients with moderate-to-severe atopic dermatitis: a real-world clinical practice in Japan.J. dermatological treatment. 2023, vol34, no1.

*8 Teppei HaginoMai YoshidaRisa Hamada, Hidehisa Saeki, Eita FujimotoNaoko Kanda. Predictive factors for responders to upadacitinib treatment in patients with atopic dermatitis. dermatological treatment. 2024, vol35, no1.

*9 Teppei HaginoMai YoshidaRisa Hamada, Hidehisa Saeki, Eita FujimotoNaoko Kanda. Early itch relief with upadacitinib predicts later skin clearance in Atopic dermatitis. 2024, vol35, no1.

*10 Teppei Hagino, Risa Hamada, Mai Yoshida, Hidehisa Saeki, Eita Fujimoto  and Naoko Kanda. Sustained Effectiveness of Upadacitinib in Moderate-to-Severe Atopic Dermatitis: A 48-Week Real-World Study. Pharmaceuticals 2024, 17(4), 519

 

 

よくある質問

Q:日常生活では何に注意をすればよいでしょうか。

 

A:日常生活の中では、皮膚に刺激を与えないようにしましょう。入浴や手洗いの時には石鹸やシャンプーを使用することは構いませんがゴシゴシ皮膚を擦らないようにしましょう。また、日焼けにも注意が必要です。なによりも保湿剤でのスキンケアが重要です。

 アトピー性皮膚炎に限りませんが、健康な皮膚を保つには、充分な栄養と睡眠が必要です。偏った食事は睡眠不足・ストレスは悪化因子ですので、バランスの取れた食事と規則正しい生活を心がけてください。

 

Q:ステロイド外用剤を使わないといけないでしょうか。

 

A:ステロイド外用薬は、比較的長い歴史があるため科学的に最も根拠があり効果もよくわかっていますし、一方で短所もよく知られている薬です。また保険診療という枠内で比較的安価で入手できる薬剤で、費用対効果を考えた上でも最もコストパフォーマンスが良いと考えられます。当然使う必要がなければ使うことはないですし、かゆみや炎症をおさえるために何らかの薬剤を使用するとした場合、理性的に判断するとステロイド外用薬を使わない手はないと考えられます。医学的な根拠をもとにまずはステロイド外用薬もおすすめしますが、科学的な根拠とは別の基準で治療を受けたいという方もいらっしゃいます。その場合は相談しながら治療をすすめていきます。

 また、現在ではステロイド以外の外用薬や、上記のような注射薬や内服薬もあります。それぞれ使用するには年齢制限、重症度に応じた使用制限などいくつかの注意点がありますので、適宜相談しながら治療を行います。

 

Q:ステロイド外用薬が怖いのですが

 

A:具体的に何が怖いか考えてみると良いと思います。ステロイド外用薬の副作用は、多くの方が思っているほど強いものではありません。易感染性(感染症にかかりやすくなる)、痤瘡(にきびがでてくる)、毛細血管拡張(細かい血管が目立ってくる)、多毛(毛が濃くなる)、副腎抑制(内臓の臓器である副腎が抑制される)、皮膚線条(いわゆる肉割れ)といったところが代表的です。はじめの4項目は、使用を中止するなり適切な対処を行えばもとに戻ります。副腎抑制は、strongレベルのステロイド外用薬を1日に20g使用した場合、一過性の抑制がみられることが知られていますが、使用をやめれば戻ります。また、very strongレベルのステロイド外用薬を1日に10g前後を3ヶ月使用しても不可逆的な副作用は生じないとされています。この中で不可逆的な副作用としては皮膚線条があり、一度裂けてしまった真皮の成分は多くはもどりません。

 このようにいくつかの注意点がありますが、さほど怖いものではないですし、われわれ皮膚科専門医は、このような副作用についてよく習熟していますし、副作用が起こっていないかを常に観察する必要があるために、通院していただき診察をしているわけです。

 

Q:ステロイド外用薬を使用すると皮膚の色が黒くなると聞いたのですが

 

A:炎症後色素沈着という生理的な現象があります。皮膚に炎症がおこると、一時的にメラニンの沈着がみられ褐色になる反応で、アトピー性皮膚炎に限ったことではありません。わかりやすい例としては、転んで怪我をした場合一時的に皮膚は茶色い色になりますが、いずれ色はもとに戻っていきます。アトピー性皮膚炎も同様で、湿疹があると炎症を起こしますが炎症が治まったあと一時的に茶色くなるわけで、ステロイド外用薬によるものではありません

 

Q:注射薬や新しい内服薬などの新しい治療を受けたいのですが、どのようにしたらよいですか?

 

A:一度受診をお願いします。概略をお話した上でご希望でしたら高次医療機関をご案内いたします。